取扱明細数が多いほど在庫最適化の余地あり
― はじめに
鉄鋼業界は、その生産プロセスとサプライチェーンの複雑さから、在庫管理が重要な課題となっています。特に、製品の種類が多いほど、在庫最適化の余地は大きくなります。多様な製品を効率的に管理するためには、細やかな在庫管理戦略が必要です。この記事では、取扱明細数が多いほど在庫最適化の余地があるという観点から、鉄鋼業界における在庫管理の最適化について考察します。
― 鉄鋼業界における取扱明細とは
取扱明細とは、製品の種類やバリエーションの数を指します。鉄鋼製品の中でも主な製品として、鋼鉄板、鋼管、鋼板、ワイヤー、鋼索、鋼線、鋼筋、プレート、ワイヤーロープが挙げられますが、素材を含めると下記のように多岐にわたります。
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炭素鋼:鉄と炭素の合金で、炭素量が0.02%~2%までの鉄鋼素材。市販されている形状はJIS規格で細かく分類され、種類には冷間圧延鋼板(SPC材)、一般構造用圧延鋼材(SS材)、機械構造用炭素鋼鋼材(S-C材)、炭素工具鋼鋼材(SK材)などがあります。
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合金鋼:鉄鋼素材の五大元素に他の金属元素を添加したもの。クロム (Cr)、ニッケル (Ni)、モリブデン (Mo)、タングステン (W)、コバルト (Co)などが含まれ、種類にはSUS材(ステンレス鋼)、SK〜材(合金工具鋼)、機械構造用合金鋼、超硬合金、ハイテン鋼などがあります。
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鋳鉄:金属を溶かして型に流し込み、冷やして固める加工方法を用いた鉄鋼材料。鋳造に適した材料が鋳鉄です。
これらの製品は、それぞれ異なる特性を持ち、さまざまな産業分野で使用されています。鉄鋼業界はこれらの製品の種類やバリエーションを増やすことで、より広範な需要に対応し、競争力を維持しています。
鉄鋼業界における取扱明細数と在庫最適化の関係は非常に密接です。明細数が多いということは、管理すべき商品の種類が多いことを意味し、それぞれの商品の在庫状況を正確に把握し、適切に管理することが求められます。
― 取扱明細数が少ない場合の在庫管理
取扱明細数が少ない場合、明細ごとに最適な発注数量を検討する時間的な余裕があるため、適切な在庫量を維持しやすくなります。現状の在庫把握と過去の実績分析、需要予測を基に適正在庫を設定し、エクセルを活用して在庫が少なくなると通知してくれる機能やマクロを使えば、市販ソフト並みの在庫管理も可能です。
― 取扱明細数が多い場合の在庫管理
一方で取扱明細数が多い企業ほど、明細ごとに最適な発注数量を検討する余裕がありません。このため、各明細に対して一律の設定値を設けざるを得ない状況にあります。例えば、在庫基準月数※を一律3カ月と設定した場合、全ての明細に同じ基準を適用するため、明細単位での最適な設定ができず、在庫の過不足が発生してしまいます。このような実情から、取扱明細数が多い企業ほど在庫最適化の余地と効果が大きいと言えます。
※在庫基準月数:予測される需要に基づいて在庫をどの程度の期間分持つかを示す指標です。例えば、在庫基準月数を3カ月と設定する場合、その商品の在庫は3カ月分の需要を満たす量を保有することになります。しかし、全ての明細に一律の基準を適用すると、需要の変動がある商品では在庫過剰や欠品のリスクが高まります。
― 個別明細毎にきめ細かく発注数量管理を行うメリット
取扱明細数が多い企業において、個別明細毎にきめ細かく発注管理を行うことは在庫最適化に直結し、企業の経営効率を大幅に向上させます。特に鉄鋼業界のように製品の種類が多く需要が多様な業界では、その重要性が一層際立ちます。個別明細毎にきめ細かく発注数量管理を行う具体的なメリットとして以下が挙げられます。
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競争力の維持:個別明細毎の最適な在庫レベルを実現することで、顧客のニーズを満たしつつ、競争力を維持することが可能です。適正な在庫管理は、納期の短縮や欠品の防止にも寄与し、信頼性の高い供給体制を築けます。
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コスト削減:個別明細毎の最適な在庫レベルを実現することで、無駄な在庫管理コストを削減し、資金繰りを円滑にすることができます。
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サプライチェーンの最適化:個別明細毎の最適な在庫レベルを実現することで、入荷・管理・加工・出荷などの各段階での効率化が図れます。これにより、サプライチェーン全体がスムーズに機能し、全体の生産性が向上します。
― 在庫最適化ツールの活用がポイント
個別明細毎にきめ細かく発注数量を管理する方法の1つとして、在庫最適化ツールの活用が挙げられます。
過去のデータを活用して需要を予測し、将来の需要に合わせて適切な発注数量を示します。
三菱商事は、鉄鋼等の素材流通業界向けに、統計理論を活用して鋼材の発注量算出・推奨を行う在庫最適化サービス「M-Stock」を展開しています。このサービスは、統計理論に基づく在庫適正化アルゴリズムと統計需要予測を駆使し、データを半自動的に取り込み、明細ごとに最適な在庫数量や発注量を提案します。明細数が多くても、効率的に個別明細毎のフィッティングを実現しつつ、シームレスかつ効率的にデータを取り扱える為、従来個別明細のフィッティングやデータ取扱に要していた時間を他の優先業務に振り分けていただくことが可能になります。また、発注担当者の意思入れを踏まえて、発注量を決定することも可能です。
また、熟練発注担当者以外でも業務品質を担保することが可能で、出荷や在庫の実績データをグラフで視覚化し、全体や品目毎の分析を容易に行うことができる可視化と分析ツールとなっています。
― まとめ
取扱明細数が多い企業ほど、明細毎に最適な発注数量を検討する時間がないため、在庫の過不足が発生しており、在庫最適化の余地や大きな効果を得られる可能性が高いことがわかりました。M-Stockは将来の需要予測をもとに明細毎で適切な発注数量を自動的に抽出することが可能となっています。
本記事では、取扱明細数が多いほど在庫最適化の余地があるという観点から、鉄鋼業界における在庫最適化とそのメリットについて紹介しました。